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台風クラブ「ついのすみか」/タカダスマイル「かくれんぼ」7inch Sg (JOYFULレコード/JR-160717)2016/7/17 release


 昨今東京でも人気上昇中の3ピース・バンド、台風クラブと、シンガー・ソングライターのタカダスマイルという京都勢2組によるスプリット・7インチ・シングル(同内容のCDつき)。京都のレンタサイクル・ショップ『えむじか』周辺アーティスト同士ということから企画された盤で、台風クラブの方にはタカダが、タカダの方には伊奈昌宏(台風クラブ)が参加するなど両者の交流がそのまま作品に反映されている。他にもミサト(exリツコ)、dino(Baa Baa Blacksheeps)など『えむじか』周辺仲間ミュージシャンが参加したり、録音とミックスを江添恵介(渚のベートーベンズ)が、マスタリングを阪本大雅(スタジオRAG)が担当するなど今の京都を面白くしている仲間たちがサポート。ということもあり、2曲以上の、2アーティスト以上の力……今の京都を面白くしている新世代たちの邪気のないエネルギーが集約されたような作品になっている。

 台風クラブの良さの一つはヴォーカル、ギターの石塚淳が書く、寂寞と自嘲、やけっぱちと慈愛などが共存している歌詞だ。この「ついのすみか」は、一聴した限りでは、石塚のちょっとぶっきらぼうな歌、ストレートだがグルーヴ感溢れる演奏が、ハネるビートさえもまろやかに捉えたバウンシーな音質もあってか、ぶきっちょで憎めなく、あるいはフレンドリーと思わせてしまうバンドのラフな姿を素直に伝える1曲だ。だが、強烈なセンチメントに押し流されまいと淡々とそこに佇む様子が静かに刻まれたリリックは限りなくロマンティックで、ふとした瞬間に甘い翳りすら覗かせてしまう。使われている言葉は全く捻れていないしトリックもそれほどないのに、石塚の歌詞には裏の裏に潜む苦い記憶とそこに向き合う覚悟のようなものがどうしても見え隠れする。そこがいい。石塚は村八分のようなレジェンダリーなロックに心酔してきた経験を持つという。だが、彼はそうしたバンドが築いてきた歴史が圧倒的であることを頭で理解しながらも、どうにかして抗おうともがき、でも自分たちが上書きすることに必要以上に躍起にならず、ただ、ただ、ここで楽しんで音を鳴らすことに腐心する。石塚のメロディがポップで親しみやすいにも関わらず、起爆力を持った“太さ”が宿っているのもそのためなのかもしれない。

 台風クラブのメンバーより少し世代が上のタカダスマイルの「かくれんぼ」は、甘酸っぱい旋律と穏やかな目線の歌詞がノスタルジーを喚起させるフォーク・ロック。大らかなヴォーカルと軽やかな演奏が魅力で、相手を選ばない人徳あるタカダの朗らかな人柄がそのままカタチになったような曲と言える。とりたてて何か気の利いたことをしているわけではないけれど、いい“うた”のカタチを丁寧に素朴に追求している作り手は本当に強い。おまけにタカダはアコギ1本でどこでも演奏できる、そして、そこにいる客が例え彼を知らない人ばかりでもちゃんと場を作って引き込むことができる開かれたパフォーマー。一つ間違えば閉鎖的になる、仲間内での満足に終始してしまいがちの狭い京都の中で、人と人を繋ぐパイプ役も担っている重要人物だ。夜『えむじか』四条河原町店に行けばたいていタカダがいる。そこにはこの7インチや他にも多数の自主制作CDが扱われていて、自転車を借りる予定がなくてもフラリと店に入ってCDを物色することができる。レコ屋よりレコ屋っぽいこの売り場を担当するのもタカダだ。

 加えて、ここまでアナログ盤としての音の良さにも驚かされる7インチ・シングルも珍しい。CDも付属しているが、私はやっぱり盤をターンテーブルに載せている。

タカダスマイル HP

 

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